保湿系トライアルセット

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新と千早の大学生活



 「うわ……たくさん人居ますね」
 試合会場に初めて足を運んだ三室はきょろきょろと周囲を見回している。
「人数はあんま気にせんくていいざ? ……色んな級のもん居るだけやし」
「それにトーナメントだから実際当たるの、この中の一握りだよ」
 試合慣れしている新や千早は落ち着き払って答える。学生選手権前に三室に経験を積ませようと、今日はかるた部何人かで小さ目の大会に滑り込みでエントリーしていた。
「準備していらっしゃい。こっちは大丈夫だから」
 部員達の飲み物を入れた袋を手にしている小野が千早達に着替えてくるよう声を掛けてきた。練習場で新と千早の試合を見て以来、小野は時々部に顔を出すようになっていたが、つい先日正式にマネージャーとして入部した。伊勢の離脱で女子部員が減っていたかるた部にとっては朗報だった。
「はい。じゃあ行ってきます」
 千早はスポーツバッグを手に会場奥の女性更衣用の和室へ向かい、新と三室はその場で鞄からTシャツを取り出す。

 「おっ待たせー! ……そろそろ、うちの部もチームTシャツ欲しいですよね、先輩」
 着替えてきた千早と、B級にエントリーしている相模はそんな事を話しながらこちらに戻ってきた。
「まあそうなんだけど。さくら、予算って組めそうなの?」
「……そうねえ。一応、出水先輩と相談して予算組めるかやってみるわね」
 相模が尋ねると小野は早速メモを取って手帳をパンと閉じた。
「あの一件で部員数ちょっと減ってまったし、部費厳しいですか、小野先輩」
 新は気遣わしげに問うた。練習場で話し合いを持った後、出水が部を代表して奥山の件を学生課に相談した。どういう調査が入ったのか詳しくは話してもらえなかったが、彼と携帯電話の調達で奥山と直接結託していた伊勢の二人には処分が下り、それを聞きつけた井出は自分から退部届を出してきた、と巽から聞かされている。
「まあ、何とかしてみるわ。部員が減ったって言うけれど……淀んでいた部屋の空気を入れ換えたと思えば、むしろスッキリしたと思うわよ?」
「換気ですか。……ん、まあ確かにあの後は、部の練習も密度濃くなったのは間違いない事やけど。三室かって強なってきたし」
 新も穏やかに答える。

 「そ、それは綿谷くんたちA級二人に毎日あれだけ相手されたら……最初のうち僕、毎日筋肉痛でしたよ」
「三室くんは、お手つきしないのが強みだよ。取りが丁寧だよね」
 少し照れながら、それでも三室は笑顔で返してきた。あの一件以降、部内の空気がぴりっと引き締まり、部員皆がかるたに対して貪欲になった結果、練習日も練習量も格段に増えた。もっとも新や千早はA級の練習相手が足りないため、部活の後に白波会にちょくちょく顔も出している。
「……綿谷と綾瀬、全力全開だもんねえ。あたしだって最近何キロか落ちちゃったわよ」
「全力なんて当ったり前じゃないですか。相模先輩だって今日勝てばA級ですよ? 早く一緒の会場で試合しましょうよ」
 けろりと答える千早に、相模は苦笑で応じている。
「そや、三室……あれから三笠さんは何か言うてきたりしてえんの?」
 奥山や伊勢は明らかな証拠が残っていたため処分を下せたが、その背後にいた三笠については噂だけは数多く出てきたものの、部の問題と三笠とを直接結びつけるだけの物が出てこなかったという。ただ本人もそれ以来大学に顔を出していないようだったが。

 練習場での話し合いの後、三室は入部時三笠と話した通り、部内の出来事を三笠に時々報告していた。もっとも報告内容は三笠が期待するようなものではなく、新と千早がどれほどかるたに情熱を傾けているか、それに影響されて部内の雰囲気がいかに引き締まったか、自分がどのくらい力をつけてきたかという話題に終始している。
「……うん、一応僕からはメール出してますけど、反応はないですね。……ただ僕も、柏木のおじさんが亡くなる前後の話は初耳だったんで……少し気の毒には感じてるんです」
 あれから三室は親戚を何人か訪ね、「柏木暁」に何が起きたのかある程度調べてきてくれた。少し前、三室の口から語られた、柏木暁が三笠家───母方の実家に引き取られた以降の話は、新や千早の想像を超えて苛烈なものだった。
「それはおれも同じや。ほやけど、三笠の家の人に色々言われたかって、その後何やかんややってたのは本人の意志やしの。その部分の責任は本人にしか取れん事や。……他の人らもやけど、それ果たした後でかるたに戻って来るのはいいと思うけどの」
 茶室で出水と話した時、出来れば三笠達にもまたかるたを好きになって欲しいと思っていただけに、そこは新にとっても少し残念な部分だったが、出水や巽が言う通り問題が予想以上に大きかったためやむを得ない事だと考えるしかなかった。
「そうですね、僕もそう思います。僕らに出来るのは、あの人達が心底反省して戻ってきた時に受け入れる事ぐらいでしょうけど」
「ほや。そのためにも部を盛り立てていかんとあかんし、今日の試合も頑張らんとの」
 新の一言に三室も笑顔で頷いた。

 「新ぁ、三室くん、何してんの? そろそろ組み合わせだよー?」
「あ、ごめん千早。今行くわ」
 千早のよく通る声に呼ばれ、新が大声で返事をした途端、会場内の雰囲気がざわめいた。
「うわ、綿谷くん達……注目の的ですよ……」
 三室はきょろきょろと周囲を見回すが、新と千早は表情一つ変えていない。
「んー……試合場で人に見られるのって、あんま気にした事ないわ、おれ」
「私もだいぶ慣れちゃったみたい」
 落ち着き払った二人の様子に三室はほっと息を吐くと、相模と連れ立って自分達の試合会場へ向かう。
「今日は個人戦だから、当たれば新もライバルだね」
「うん。……出来れば最後に当たりたいとこやけど」
 身体をほぐしながら、千早と新はぽつぽつとそんな言葉を交わしていく。入部してからこちら、色々な事があったがようやく自分達も他の部員もかるたに全力投球出来るようになった。
「A級一回戦の組み合わせしまーす」
 大会スタッフの声が廊下に響く。二人は柔軟体操をやめ、組み合わせチェックに向かう。
「何もかも、ここからだよね。うちの部も……私達のかるたも」
「ほや、一歩ずつや。……まずは一回戦、楽しいかるたしたいの、お互い」
 新が差し出した手の平に千早はパンと自分の手を打ち付ける。そして二人はまっすぐ顔を上げると各々の席へと真っ直ぐに歩き出した。







written by Hiiro Makishima