保湿系トライアルセット

Something Four 6

R18



 「新、お願い……! んっ、お願いだから……っ!」
 千早が上げる声のトーンがまた変わる。
「だから?」
「な、かで……いかせ、て……! 新の、で……、ちゃんと、いかせて、お願い……!」
 泣いているようにさえ思えるその声に乞われ、新のボルテージも一気に跳ね上がった。
「うん。おれも、千早の中で、いきたい」
 求められて応じた新は肘で体重を支え直し、大きく腰を使い始める。感極まった千早の中がまた新を締め付け、背中に回された腕も新の身体をきつく抱く。
「あっ、あ……! 新、あらた……っ! いい……っ、いっちゃい、そう……っ! でも、やだ……!」
 眦に浮かんだ涙を新は指で拭い、そのまま昇り詰めていいと告げた。

 「……でもっ、新、が……! また、置いてきぼり、に……! やだ、そんなの、やだ……!」
 新が達しないまま自分だけ頂点を迎えるのは嫌だと紡ぐ言葉と、貪欲に新を求めてひくつく千早の内側との矛盾が大きくなっていく。
「千早……」
 さっき指で拭ったばかりの目元にまた涙が零れているのを見て、新の胸が切なく震えて、水位もぐっと押し上げられる。
「少し、だけ……待てる、か? ……合わせられ、そうや……」
 放出の欲求を抑え込まずに激しく腰を送り込むと、縋り付いていた千早が顔を起こし、新の肩を噛む勢いで唇を押し当ててきた。
「ん……っ! っぁ、ん……!」
 押さえきれない切羽詰まった声が時折漏れて、火のように熱い息が肩を滑っていく。そうまでして堪えてくれる姿が最後の箍を新の中から弾き飛ばした。
「っ、千早、おれもや、おれも、もう……! ……っ、千早、一緒に、一緒やから、ちはや……っ!」
「……っ! あらた、新……っ! お願い、お、ねがい……っ! もう、私、あ、あぁぁ……っ!」
 仰け反った千早の中が一層きつく引き絞られ、奥へ誘いこまれた新はそのまま熱を放つ。
「……、……」
 声にならない声を絞り出した千早の身体が何度も震えて、糸が切れたようにがくんと布団の上に落ちた。

 「……千早?」
 一足先に息が戻った新が名を呼ぶが、千早は言葉を発さない。
「千早、どしたんや」
 唇が薄く開いているが、呼び掛けても反応がない。驚いて新は手の平を千早の胸に当ててみた。規則正しい鼓動が手に伝わり、少しだけ安堵できたが、その様子に何故か見覚えがある気がして記憶を手繰ってみた。
「……高校選手権か……」
 高校一年の時の団体戦、高熱をおして出場した千早がついに倒れ、意識を失った。太一から「頼む」と託されて腕に抱き留めた千早は控室で寝かせるまで、全く周囲の物音に反応せず熱い息を吐くばかりだった。
「今は熱出た訳でないけど……気、失ったんか……」
 そのまま寝かせておこう、と新はさっき着ていた服をまた適当に着て、干した洗濯物から千早のブラとショーツだけを取り込む。まだ生乾きだったそれを洗面所に持って行き、普段そう使わないドライヤーの一番強い熱風を当てて乾かし始めた。

 「無理、させ過ぎやったな……おれ。耳だけでいかせてもたり、感じやすいの知っててお預けでいかせたり……」
 一度目のそれは二人とも予想外だったが、その後に千早を絶頂に押し上げたのは自分の欲求だ。失神させるまで攻めることもなかったと新は申し訳なさで一杯になる。
「……乾いたやろか」
 指で触れた感じでは、ショーツは乾かせたようだが。
「これと、Tシャツだけでも着せとこ……。お詫びには足りんけど」
 一旦ドライヤーのスイッチを切り、部屋に戻る。千早はまだ目を閉じたままでいた。衣装ケースからTシャツを一枚取り出して布団の脇に膝をつく。
「無茶して、ごめんな」
 布団の足元をめくって爪先にショーツを通し、少し引っ張り上げてから新は千早の腰を少しだけ片手で支え、そっと履かせてからまた静かに寝かせる。今度は枕元に移動して力の入らない千早を胸に抱き留めてTシャツを着せ、出来るだけ静かに横たわらせた。

 (……限度、おれが自分でちゃんと分かっとかんと、あかん。今までかって、結局いつも千早任せや……)
 欲望の限度が分からないと時々千早を抱く前に告げ、千早はそんな自分をいつも受け入れてくれていた。千早の意志を尊重すると言えば聞こえはいいが、それは限度を分かっていない自分への言い訳だ。
「一緒に生きてくんやったら、弁えとかんと、あかん事や。……千早の優しさに甘えとったらあかん」
 そう考えているところに、布団の中で身じろぐ気配がした。
「……ん……、あ、れ……新?」
 二、三度大きな目がしばたたいて、千早が名を呼んでくる。
「よかった、気い付いたんや……千早。……無茶ばっかして、ごめんな……」
「……何が……?」
 掠れた声が問うてきた。
「際限なしに欲しがって。とうとう気まで失わせて。いつも自分の限界分からん、我慢できん、って言うて千早に決断背負わせてた。……千早が拒否できんって状況でばっかり、聞いて……」
「新、Tシャツありがとうね」
 千早が不意に言う。今の話と全く繋がっていない言葉に、新はどう返していいのか分からなかった。

 「いつも新さ、した後に謝ってくるけど。……謝らないで欲しいかな」
 拒否できない状況という意味では同じ事だ。千早にとって自分の謝罪は「気にしていない」と答えざるを得ない。
「……千早の言う通りや。それも甘えとったんやな、おれ」
「だからさ、落ち込まないでってば。そんなに申し訳なくなる事なの? 新が私を抱くって。新は私の事……強姦してるの?」
「それだけは絶対違う。おれ、そんなつもりで抱いてない」
 その単語だけは即座に否定した。そう言い切った時、千早の手がそっと新の手の甲に重ねられた。
「うん、私だってそうだよ。そんなつもりで抱かれてるんじゃない。求められると、嬉しい。私も欲しくなる。だからこそ、謝らないで」
 きっぱりした声が新の鼓膜を鋭く打ち、ようやく新はその意味に気付く。謝る事それ自体が、千早自身の欲求を否定している。だから千早は「だからこそ」謝るなと言ってきたのだ。泣きたくなる程千早への気持ちがつのり、言葉にさえ出来ない。
「……ありがとう、千早。……抱き締めて、いい?」
 布団から身を起こした千早が柔らかく新の首を抱いてくれ、そのしなやかな身体を新は両腕でしっかり抱き締めた。

 「新、私ね、欲張りだよ? 結構ガチで」
 腕の中の千早がまた、いきなり話題を変える。
「え? ……や、それは知ってるけど」
 ただ千早が何に対して欲張っているのか、急に言われたせいかピンとこない。
「さっき、『サムシング・フォー』教えてくれたけど。……私、四つじゃ幸せになれないなあ。五つ……ううん、六つ」
 千早は軽い笑い声を立ててそんな事を言って寄越した。
「……六つ? 他にも何か、欲しい? ……何やろ」
 あのね、と短い応えが耳を打つ。
「かるたと……新。二つ、追加」
 言われたそれに、新の肩も震え出す。
「追加って言うか、それ前提条件やがの。……まあ、どっちでも同じか」
 それを欲しいと言うなら、いくらでも応じる。新にとっての前提も同じだから。

 「でね、一つ、今欲しいんだ」
「……今から取るんか? 構わんよ」
「違うよ。欲しいのは、新。……だめ?」
 それは構わないが、千早が疲れていないかが気に掛かる。そう尋ねると千早はかぶりを振った。
「だめなわけ、ないやろ」
 抱きついていた千早の膝に腕を通して、ほっそりした身体を仰向けにさせると新はその上に覆い被さる。
「……せっかく乾かしてきたんやけど、また脱がす。また洗うし」
「なんか新の方が主婦みたい」
 そんな事を言う唇を黙らせようと、新は自分の唇で塞いだ。  








written by Hiiro Makishima