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 「……んっ……。はぁ、……っ、はぁ……」
 流石に布団の中に熱気が籠もり、新は一度掛け布団をめくって新鮮な空気を送る。火照った肌には冷たく感じたのか、千早が小さく震えた。
「大丈夫か? 千早」
「あ……うん。……汗、かいてたから、ちょっとヒンヤリしたけど」
 答えながら千早はじっと新を見上げていた。
「……何や?」
 気付いた新が視線を合わせると、千早は腕を伸ばして新の首を抱いてきた。
「新も……いって?」
「……え? ……あ、うん。……ちょっと待って、布団……」
 その言葉は千早の唇に塞がれて最後まで言い切れない。

 「……これでも、良くない?」
 新が動いている間なら、キスで声を漏らさないように出来るのではないか、と千早は言いたいようだった。
「どうなんやろ。……ちょっと、自信ないのぉ」
 スパートをかけると、全身を使う事になる。その状態でキスを続けた事がないだけに、新にも何とも言えない。
「……なら、あかんかったらまた布団被るでの?」
 多分それが一番無難だろう。頷いた千早の脇に片腕を差し込んで身体を支え、そっと千早の中に自身を埋め、もう一方の手を千早の頬に沿わせて顔を寄せる。新のキスを受けながら千早は首を抱いていた腕を緩め、広い背中にしっかりと回した。
「ん……っ、……っは、ンっ……」
 ゆっくりと千早の中を新が動き始める。
(……この位までやったら、まあ……大丈夫なんか。……ほやけど、もうちょっと動くと、頭の位置ズレてまうな、やっぱ)
 頬に当てていた手を外し、新は手探りで掛け布団をずるずると引き上げていく。
「……ごめんな、やっぱちょっと動きづらい感じやで……。千早、手……繋がせて」
「うん。……新が、気持ちいいのが……いいよ。私も」
 千早が差し出した手を新は指を絡めてしっかり繋ぐ。小さなキスを唇に落とし、顔を離すと新は今度こそ本格的に腰を動かし始めた。

 「……や、んっ……、新、なん……か、凄……っ、んっ!」
 大きく中から擦り上げられ、千早の息があっという間に乱れる。
「おれ……が?」
 どちらかと言えば千早の締まりがいつもよりきついのではと新には感じられていただけに、自分が凄いとはやはり思えなかった。
「おれより、千早やと……思うざ。……凄い、締まってんのに、柔らかいし……。何か、中の方……動いてるみたいやしさ。……ひくひくって」
「……そういうの、言わないで……っ、恥ずかしい、から……っ」
 そう告げてくる間にも、千早のそこは新をきゅうきゅうと締め付けてくる。
「う、わっ……ヤバっ、千早、ほんな、締めたら……保たんって、おれ……」
「知らない、ってば……。っく、あんっ……やぁ、新……っ、そこ、ダメ……っ」
 どうやら張り出した傘が千早の一番いい所を探り当てたらしい。締め付けが一段ときつくなり、繋いでいた手にくっと力が入った。

 「……ここ? ……気持ち、いい、とこって……」
 同じ角度になるように腰を送り込んでみる。
「っふ、あぁッ! ダメぇ、また……っ!」
 千早の内側がまるで別の生き物のように蠢き、新に熱く柔らかくまとわりつく。その快感は、思うまま腰を使ってもっと千早の中を味わいたいという欲を新の中に生み出す。それに抗う術などなく、繋いだ手を新の方からきつく握りしめ、荒々しく千早の中を行き来しだした。
「……千早、千早……っ!」
「んッ、んうっ……! 新、新ぁ……っ! やっ、あんッ! もう、もう……っ!」
 切羽詰まった千早の声に、新の内圧も限界を超える。
「おれも、保たん……っ! 千早、いって、おれと、一緒に……っ」
 指先が白くなる程きつく手を握り、千早の身体は矢を番え、放つ直前まで弦を引き絞った弓のように「その瞬間」に向かう。
「……っ、あぁっ?! ……っあ、もうダメッ、新、い、くぅ……ッ! あ、あ───ッ!」
「く……、ち、はや……っ!」
 千早の奥に新という矢が放たれた瞬間、千早という弓はがくんと布団の上に落ち、新が脈打つたびに下肢を引きつらせた。

 がっくりと力が抜けた新の身体は千早の上に落ちる。辛うじて新は自分の頭を横へずらし、千早にぶつからないようには出来たが、それが限界だった。どさりと覆い被さった新を、千早は荒い呼吸のまま身体で受け止めた。
「……っ、ごめん。重いやろ、今……退くわ」
 まだ頭がぼうっとしているのか、千早はその言葉に反応しない。のろのろと新が千早の上から身体を退かせ、頭の上まで被さっていた掛け布団を外そうとするが、疲れた腕に布団はひどく重たく感じ、まるで投げ飛ばすように床の上へと押しやった。
「千早……? 大丈夫か?」
 二、三度呼び掛けてようやく千早の大きな瞳が瞬き、新に視線を合わせてくれ、内心ほっとする。
「……ん、へいき。……新は?」
 少し舌足らずに聞こえる声で千早が問う。
「おれは平気やけど……無理させたかの、おれ。……ごめん」
「新、今日……言いすぎだよ、ごめん、って……全然、謝る事、ないのに」
 千早は一言一言をゆっくり区切るように告げてきた。
「……ほんな言うてたか? おれ。……ごめん、全然意識してなんだわ」
「ほら、また言った」
 からかうように言われ、ようやく新は苦笑を押し上げた。

 「のぉ、千早? ……お願いがあるんやけど、いいやろか」
「……どんな?」
 聞ける事ならいいけど、と千早は新にまっすぐ視線を向けて答えた。
「えっとな、今度……行ってみんかな、って思ってさ。……その、あー……、そういう、ホテル」
 新は耳まで真っ赤にして言ってきたが、聞いた千早の顔も同じくらい赤く染まっている。
「きゅ、急にどしたの? 新……」
「や、その……変な我慢とか、するのも千早にさせるのも、毎回とかって何か気が引けてもてさ……」
 声を抑えるために、手で口元を覆っていた時の事を新は話し出した。

 「何か、あん時千早見てたら……変な話やけど、おれが無理矢理やってるみたいに思っつんて。おれな、するんやったら、やっぱ千早の事はちゃんと良くしたげたいし、千早にも……楽しんで、って言うと変かも知れんけど、まあ……ほんな風に思ってる。ほやで、たまにはいいかなって、ちょっと思ったんや。……そういうとこ行くのも」
 日頃そう口数が多い方ではない新が、つっかえながら口にした言葉には「千早が嫌な思いをしないように」という気持ちが込められている。だから千早も照れくささを押し殺して、新にはっきり分かるように頷いて口を開いた。
「ありがとう、新。……ほんとの本音、言っていい?」
「もちろん、いいざ?」
 答える前に千早は小さく笑い、ころんと寝返りを打って新の身体にぴったりと寄り添った。

 「……新になら、無理矢理っぽくでも……いい、かな」
 新が本気で無理矢理そういう事をしないのは千早にも良く分かっている。だから彼女が今答えたのはあくまでも、二人の合意の上での行為の話だ。新はしばらく呆気に取られたように千早の顔を見、それからようやく口元に笑みを浮かべた。
「……っぽく、か。……まあ、気が向いたらの」
「それとも私が無理矢理しちゃう?」
 悪戯っぽく千早が追い打ちを掛けてくる。
「それも、気が向いたら、かの。……まあ、別に千早にやったら、構わんけど……多分、無理矢理が成立せんと思うざ?」
「どうして?」
 簡単な話だ、と新は声を立てて笑った。
「千早にされて、おれが反応せん訳ないやろが。無理もへったくれもないわ」

 火照りが引いてくると、少し肌寒さを感じる。
「……風呂の湯張ってくるわ。冷えるやろし、布団入ってねの」
 新は身軽に立ち上がり、裸のまま浴室に向かい勢いよく蛇口を捻って浴槽に湯を貯め始めた。浴室のドアと和室の襖を開けておけば、湯が一杯になってくれば音で分かるだろうと、そのまま部屋に戻る。千早は敷き布団の上に横座りで新を迎えた。
「身体、冷えてえん?」
「ん、大丈夫」
 それでも新は千早の背後に腰を下ろし、身体が冷えないように背中から千早をそっと抱きかかえた。
「うちの風呂、狭いでなあ……手足伸ばしたい時とか、やっぱちょっと不便やわ」
 千早の肩に顎を乗せて新は溜め息混じりにぼやく。
「じゃあさ、今度……『お出かけ』した時はのんびりお風呂入ったら?」
「そうしよっか。……お出かけ、か。悪くない表現やなあ。今度から、おれもそう言うてみるか。……千早にだけ、その意味で」
 二人の間だけで通じる言葉がある、と思うと、それだけで何か心の中が暖かいような、くすぐったいような気分になる。きっとそれを幸せと呼ぶのだろう、と新は腕の中のなよやかな身体を優しく抱き締めた。








written by Hiiro Makishima