Photograph 4
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千早が落ち着くのを待たず、新は力強いストロークを再開させた。 「……いきっ放しでも、なんでも、いいでさ。……おれも、このまま、いきたい」 聞こえているかは分からない。 「あらた……っ! 新ぁっ、……っあ、ああっ! また、いっちゃう……!」 その言葉通り、全身を汗で光らせた千早がまた震える。新は自分の中の水位がまた押し上げられているのを感じた。 「……千早、凄く……気持ちいい……」 腰を送りながら首筋に舌を這わせていくと、それさえも千早を高みに押し留めたままになる。 「あ、あぁ! おね、がい……っ! 新、いって、一緒、一緒が、いい……っ!」 千早が切れ切れに上げる声が掠れている。それでも一緒に達して欲しいと必死に告げてきた言葉に応えようと、放ちたいという欲求を抑えず新は激しく千早の中を行き来しだした。 新を飲み込んでいるそこはずっと、自身に吸い付き、締め付け、もっともっと奥へと求め続けて止まない。 「……っ! っく、……!」 感極まった涙がつうっと一筋流れて枕に染みている。もう言葉にならない喘ぎ以外、千早の口から出てこない。その姿が新を溢水点に導いた。 「おれも、だめや……っ! 千早、いって、いいか……っ」 千早の内側が一際きつく絞られて答えを投げ返してくれる。 「……千早っ、ちはや……! ……っ!」 「っ、んっ……、あ……ぁ、───!!」 一気に溢れた熱を、大きく痙攣している千早のそこが全部受け止めてくれた。 「……、っ、……ぅ……」 声にならない声を漏らし、大きく反っていた千早の背中から力が抜けて、布団の上にくたりと落ちる。上体をぶつけないよう少し脇に逸れて、新の身体はその上に被さった。しばらくして何とか上体を起こし、脇に横たわる。 「千早……?」 先に呼吸が落ち着いた新は傍らの千早にそっと声を掛けるが、返事がない。 「……そっとしとこ。いきっ放しで、疲れたやろうな」 片腕をどうにか頭の下に差し込んで、腕枕をしたまま千早が目を覚ますのを待つことにした。 「ん……」 どのくらい長くそうしていたか、軽い眠気を感じていた新にも分からないが、ようやく千早の唇から小さな声が漏れる。 「千早、何か飲む? 喉、痛いやろ」 「……後で、いい。……もうちょっと、こうしてて……」 小さな咳払いをしてから告げてきたそれに、いいよと短く言葉を返して千早の望み通り側に寄り添う。枕にしていた腕で肩をそっと抱いた。 「どうでもいいけど……新さ、何であんな格好、知ってたの?」 その最中も不思議に思っていた事を尋ねると、新は困ったような笑みを頬に押し上げる。 「先輩らや。頼みもせんのにメール送ってくるざ。……千早と試してみろとかって」 自分達が交際している事は周知の事実で、彼らも想像は付いているのだろう。新にだけ時折こういう話を振っている。ただし新も一切返事はしないし、彼らも何か聞いてきたりはしない。 「だからって本当に試すことないじゃん……。けど、なんで新限定?」 「千早が本気で泣くかも知れんセクハラメールなんか、先輩らかって送る訳ないがの。おれらが一緒ん時は絶対言わんよ。……言っても『かるたバカップル』ぐらいや」 それでも恨めしそうな目で見ている千早の髪をくしゃりと撫でて、その話を打ち切った。 「さっきの、話、聞いていい?」 むしろこちらが本題だと、千早は一言一言を区切るように問うてくる。 「……おれが、じいちゃんに勝ててる事、って話か? ……勝ててる、っていうか……。じいちゃんより、幸せなんでないかなって思ったんや」 深い声音で新が語りかけてくる。新の祖父には生涯のライバルで親友だった佐藤先生という存在がいた。 「二強って呼ばれてたぐらいのライバル関係やけどさ。男同士やが。おれから見た千早もライバルで、親友やから同じやけど……男と女やから、こうやって抱き締め合えたり、ずっと一緒に生きてこうな、って言えたり。恋人や、って存在でもある分、おれの方が恵まれてるなあ、って。……全部、同じ相手やし」 新の言葉を聞いて千早が柔らかく擦り寄ってくる。 たった一つ残念なのは、名人戦だけは千早と戦えない事だが。 「……それも、お互い名人とクイーンになってから、高松宮杯とかの男女混合の試合で決勝戦えばいい。そこで決着付けよっさ」 「うん。全力で。……私、言われてみたいなあ」 千早の呟きに何と言われたいのか尋ねると、小さく笑ってから答えを教えてくれた。 「……ふふ。綿谷名人と綾瀬クイーンが試合でぶつかると、毎回すごい攻防だー、とか」 「いいなそれ。周りのもんに言わせたろ」 祖父たちと同じに、新しい「二強」だと呼ばれてみたい。 「それもいいね。むしろ男女別な名人戦クイーン戦の方がまだマシだー、とかさ」 その言葉に新は小さく吹き出した。訝しむ千早に言葉を返す。 「……挑戦者目線やと元々どっちと戦うか決まりきってるがの。おれら連覇するって事は、誰が来ても全員叩くんやから、マシもへったくれもない」 「あ、そう言えば。今のは取り消し取り消し。うん」 千早はくすくす笑う。 声が掠れてしまった千早に、新はざっと服を着て台所にあった片栗粉で作った葛湯を手渡した。 「もうちょっと、甘い方がいいか?」 「ううん、美味しい」 同じように服を身に着けた千早は、どうして新は作り方を知っていたのかと聞く。 「水溶き片栗粉にお湯入れるだけやがの。……まあ、おれ風邪引くと咳出やすいで、昔から作ってたけど。……最初はよう失敗したな」 分量の見当が付かなかった頃は多く作りすぎたり、ダマになったり、せっかくちゃんと作れたのに砂糖を入れすぎて食べると逆に喉が痛くなったりした、と苦笑混じりに新は答えた。 「強い名人は知ってるけど……ご飯も作れる名人って、居たっけ? 単に私が知らないだけかなあ」 「飯……? あ、佐藤先生そうやったな。……おれ泊めてもろた時は寿司やったけど。勝てたら特上にしてやる、とか。……他の名人がどうかはおれも分からん」 食事のために出稽古に行く訳ではないから、と言葉を継ぐと千早はまた笑う。 「……カレー焦がすクイーンは、千早ぐらいかもの?」 笑いながら言うと、千早は逆に頬を膨らませる。 「ひっど! 確かに今は事実だけどさ? 覚えるもん! それで新に言わせる」 「……何て?」 新のその問いに千早は朗らかな笑みを向けた。 「参りました、っていうのと、……美味しいよー、って」 千早と同じ表情になり、新は口を開く。 「それも言わされんの、楽しみやな。……こんで二つ目か。負ける方が嬉しいのって」 とは言え現状自炊で生活している新は、そう簡単に負けるつもりもないのだが。煽るような目を向ける。 「……おれは一応慣れてるし、レパートリー増えてるでの。当分は、おれの勝ちやろ。……いつ負かしてくれるんやろな」 何しろクイーンの座に就くのと違って、こうすれば勝てるというガイドラインがない。それが不利だと唇を尖らせている千早に、ふっと笑って告げた。 「後でおれ、飯作るけど。……食ってくか?」 「……うん。カッコいいよ、新」 「飯で言われてもなあ。……とりあえず、美味いってだけ言わせとくか」 買い物に付き合え、と呼び掛ける新に千早は頷き返す。葛湯の椀を受け取り、洗うついでに新は冷蔵庫の中身をチェックした。 (おれんちの、って言うか……おれの味覚に合わせて千早が作ってくれたら、嬉しいの。……おいおい教えてこ) まるでかるたを始めて間もなかった千早に、一つずつ教えていった時のようだ、と新の顔が綻んだ。 |