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No Regret side-B 3

電話編(パラレル)



 「まあ今のは半分冗談や。気にせんといて」
『半分本気って事じゃん。気にするよ』
 即座に切り返され、新は苦笑を浮かべた。
「ほやで、二度目がなければほんでいいって。その話は。……おれもちょっと、照れ臭かっただけなんや。ごめんの」
『ううん。元は私がはっきりしなかったんだしさ、それも』
 どこかで折れないと、平行線が続いたまま携帯の充電が切れてしまいそうだと思い、新は話を引き戻した。

 「……えっとな、まず高校でのかるたやけどさ。……おれ、もういっぺん学校で呼び掛けてみるわ」
『って、かるた部作るの? って言うか今、もういっぺん、って言った?』
「うん。夏の大会の後に、いっぺん学校の集会で、かるたに興味あったら声かけて、って言うたんやけど……あんま上手く行かんかった」
 親や兄弟が有段者だという話だけはよく集まったが、肝心の生徒に希望者がいなかった、と新は零す。
『なんか不思議。福井ってかるた盛んなのに』
「まあ、みんなかるた会の方入ってまうんや。ほやけど新入生に経験者居るかも知れんし。おれ入れて三人居れば一応、団体戦は出来るが?」
『え、団体戦出れるの?! マジで?!』
「人見つかればの。ほやで、瑞沢の部作った時どう勧誘したんかとか、教えて貰えたらって思って。頼んでいいやろか」
『全然オッケー! メールでいいの?』
「うん、ありがとう。ほやけど無理に急がんでいいで。千早が時間ある時で」

 以前は興味がないと言っていた団体戦を視野に入れてくれた事が嬉しくて、千早は自分に出来る手伝いなら何でもしようと改めて決めた。
(部作った時に学校に貼ったポスター、写メして送ろうかな。文章より分かりやすいかも。一枚郵送したっていいし)
「さっき新さ、『まず』って言ったよね。……他は、どんな事?」
 そう断って話してきたのは、きっと大事な話だからだろうと千早も話題を元に戻した。
『あ、うん。……えっと、な。……おれ、メールとかって、元々ほんなせんのやけど……』
 新の声が急に滑らかさを失った。
「……知ってるけど?」
『うん。……あの、な。時々……な、何でもないようなのとか、送っても……いいかの。……メールとか』
「もちろんいいけど、新、何でそんな緊張してるの?」
『ほやかって……さっき千早に返事もらったばっかやし……。やっぱ聞いといた方がいいんかなって、思って……んと、その……す、好きな子にメールとかって』
「す……っ?!」
 改めて言われると、途端に千早も気恥ずかしくなって言葉が出なくなる。
『や、やっぱ迷惑か。ほやったら別に』
「いや、あの……迷惑なんて事は、ぜ、全然……ない、よ。わ、私も……送って……いいかな……」
『え? ……え、あ……、うん、も、勿論……気軽に送ってや』
 不意に新が、ちょっとごめん、と断ってきた。どうしたのかと思って受話器の向こうの音を意識して拾ってみると、どうやら新は携帯電話を顔から離して深呼吸を繰り返しているようだった。

 「……話の途中やったのに、ごめんの。ほんで、ありがとう。メールの事」
 何とか呼吸を落ち着けた新は話を中断した事をまず詫びた。
『あ、ううん。私も、ありがとう』
「さっき、千早は別にいいって言うてくれたけどさ。……今度、会えた時とかに……おれが福井帰ってからの事、聞いてくれるか」
『……無理、してない?』
 話の内容よりも、それが気がかりで千早は問うた。
「さっき言うた時は、ちょっと無理してたかも知れんけど……今は少し違う。千早にだけは、知ってて欲しいんかも知れん。あの頃のおれが何を見て、何を考えてたんか。……長い話んなるとは思うけど」
『うん。でもそれも、新のペースでいいよ』
「ありがとうな、千早。……気が向いたら、千早の話も聞かせてや。手紙に書かんかった事とか。別にかるた関係なくてもいいし」
 かるたが関係しない話、と言われて千早は少し考え込む。
『……まるっきり関係ない事って、案外ないかもだけど』
 構わないと新が答えてくれたので、思い付いたら話すと千早も答えた。

 『……ほんで、最後なるけど……。携帯の電池がヤバそうな感じなんや……』
 新の一言で千早も素早く自分のディスプレイを見る。電池マークはその底を残して輪郭だけになっていた。
「私のもだ、うわあ……ごめんね、長々と」
『掛けたのおれやがの。こっちこそごめんな』
「……働かせすぎちゃったね、かささぎ」
 初めて新の携帯に電話した時の一言を引用すると、新もすぐにその意味を察したようだった。
『渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにける、か。……ほう言うたら、結構いい時間か、もう』
 素振りをしないと、という新の小さな声を千早は聞き逃さなかった。
「練習の邪魔したくないから、もう切るね。……おやすみなさい」
『あ、うん。……おやすみ』

 通話を終えて真っ暗になった画面に新は視線を落とす。
「……そう言うたら、初めてでないんかな。おやすみ、って千早に言うたの……」
 何度か千早から電話を貰ってはいたが、まるで隣の部屋に移動するためにドアを閉めるように通話を終える事が多かった気がする。
(……千早、気付いたかの。……ほう言えば、千早から貰ろた手紙とかも、何か……学校から一緒に帰ってきて、曲がり角で『また明日』って言うてるみたいな印象強いな)
 かるたを続けていればまた会える、そう言い切れた千早だからなのだろうか。
「今度、聞いてみよっかの。……おれがほんな事聞いたら、笑うかの。……笑われても、いいか」
 携帯電話を充電器にセットして、かるたの取り札を手にして畳の上に座り直す。かき混ぜていたら表に返った札を裏返す前に、何気なく視線を札の表に向けた。
「……すごい偶然やな」
 視線の先には「からくれなゐにみつくくるとは」の文字が並んでいた。新は小さく笑った後、その一枚をそっと裏返しに戻し、今度こそ日課の素振りに没頭していった。









written by Hiiro Makishima