Mine 10
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ショッピングモールを後にして、アパートへの道を並んで歩く。 「意外に思った事あったんだけど……聞いてもいい?」 千早が不意に口を開いた。 「どんな事?」 「あ、いや、えっと……指輪の事もだけど、新って所有欲とか独占欲みたいなの、そんな強かったっけ? ……って」 言葉数が少なく、試合の会場で顔を合わせた時も、千早が何かの理由で不在でも案外あっさりと帰ってしまう高校時代の印象が強かったせいか、モールでの話が意外に感じたと問うてくる。 「おれはそう思うけど?」 そう言葉を返すと、千早は驚いた顔をしてこちらを見ていた。 「そう見えるのって、多分離れてたでや」 車でも七、八時間はかかる距離を考えれば相乗りを頼む南雲会の人に無理は言えない。近江神宮へ行く時は叔父が車を出してくれていたが、それも同じ事だ。帰る、と言うより「帰らざるを得なかった」という方が近いだろう。 「高校ん時は千早ともっと話したいって思っても、学校ごとの移動やから引き留める訳にいかんし」 独占欲を表に出すだけの時間がなかっただけだ、と新はさらりと言った。 「欲って言うんなら、かるたがいい例や。狙ろてる札は絶対取るんや、譲らんって千早かって思うやろ? そういうのも独占欲とかでないか?」 「……それは新の言う通りだし、半分は納得できるんだけど……やっぱり何か印象違うって気がするなあ」 まだ首を捻る千早に笑いかけて話していく。 「おれの本音、さっき部屋で全部言ったでかもの。……自分で、とかって恥ずかしすぎる話まで言ったのに比べたら抵抗ないでさ」 「まだちょっと意外には感じるけど、新がそう思ってるなら、それでいいかな」 その言葉に応えるように新はそっと手を繋いだ。 「……さっきさ、服とか買うから色とか見てくれって話かな、って最初思った」 千早の話題がまた変わる。それも楽しそうで今度本当に付き合って欲しいと告げ、自分で買うと大抵モノトーンになる事と、その理由が娘を望んでいた母が何かにつけて赤やピンクの物を新に買ってきた反動だろうと返す。 「ずっと何でかなあって思ってたけど、もしかして携帯もそうなの? 私んち姉妹だけど、赤とかピンクってそんなに持ってないかなあ……」 「千早、うちの母ちゃんに今の話、言ってやってくれん?」 半分真顔で千早にそう言った。 「うーん……新のお母さんじゃなくても、年長者に伝えるのってちょっとさ……。でも、新に似合いそうな色とか見立てるの、楽しそう。……けど私がやっぱり赤やピンク選んだら、新どうする?」 最後の一言に新は一瞬固まる。その可能性を全く考えていなかったが、全国大会などで男にも似合う赤やピンクもあると知ったから、彼女のセンスを信じようと思い、一つだけ小さな仕返しを込めて告げる。 「まあ……ダディベアでないんなら着る」 千早は少し膨れながらも笑ってくれた。 部屋に帰り着くと、千早は行儀良く正座になる。 「律儀やなあ。まあ悪い事でないけど」 「……衝動を抑えてたって新が言ったよ?」 思い遣りなのだろうと思うが、つい吹き出してしまった。 「おれの前で、だけやったら構わんよ? もう、今は」 あまり納得していない表情に、さっき買った指輪を撫でながら、更に言う。 「おれ所有欲とか独占欲強いんやろ? ほやで欲しいもんは欲しいって言う。我慢せんだけや」 「それ引き合いに出すのー?!」 膨れた千早が新の腕をぽかぽか叩く。その拍子にどこかを蹴ったのか、本棚の上からサインペンが転がり落ちてワンピースに染みを作った。 「うわ、ごめんね、新! 畳に染みてない?!」 ざっと眺めてみるが、畳には目立った汚れはない。千早の服だけが被害に遭ったらしかった。 「水性やで洗えば落ちるけど、帰る時目立ちそうやな。おれの服でよかったら、着替えね?」 押し入れの衣装ケースから適当に引っ張り出して千早に手渡す。 「ありがとう。……じゃあ、借りるね」 そう言ってくるりと背を向けて着替えようとするが、出がけにも苦労したファスナーと千早は再び格闘を始めた。 「手、貸すわ。引っ掛けるとあかんで、髪だけちょっと押さえてて」 素直に髪を上げた千早のうなじが露わになる。ファスナーを下ろすとほんの少しだけ見える背中が新の鼓動を早めてしまう。 「……新?」 「ちょっとだけ背中見えるのって、なんか逆に色っぽいんやなあ、って」 そんな事を言いながら、白いうなじに口付けた。 「やっ、ちょ……、さっき、したのに……」 「今言ったがし。我慢せんって。……嫌か?」 開けたファスナーに片手を滑り込ませて千早の腰を抱いて耳元で問う。 「……っ、あ……っ、新、意地悪……」 「何が」 重ねた問いに千早の背中が小さく反った。その反応に気を良くして形のいい耳に小さくキスを落とした。 「そんな事、されたら……、嫌って、言える、訳……ない……。もっと、欲しい……しか、言えなく、なる……」 「うん。おれも千早が欲しい。……もっともっと、欲しい」 一度腰から手を離してワンピースを肩から滑り落とした。背中がちらりと見えていたのも新を煽ったが、艶のある肌が全部視線の先にある姿にも同じだけ駆り立てられる。目の前にあるホックを外して肩口に口付けた。 「千早は、背中も感じるんかな」 膝立ちになって背骨が作るまっすぐな窪みを舌でゆっくり舐め上げてみた。 「……ふぁ、っ?! やぁ……それ、ダメ……っ」 紡ぐ言葉とは正反対に、千早の背中は悩ましく撓る。 「寝かすでの?」 もう一度ちゃんと立ち、横抱きにした身体をそっと床の上に横たえて指輪を嵌めてくれている指にそっと唇を触れさせた。 「……社会人になったら、ちゃんとしたの贈る。……給料の三ヶ月分、やったっけ?」 「そんな高くなくていいよ。……あ、けどそういうのって、ペアだよね? なら自動的に新が私のだって印にもなるんだ」 それが私の仕返しだと千早は照れたように笑う。 「……仕返しにしては可愛らしいけど。他には、欲しい物とかないんか?」 大きな瞳が見上げてきた。 「あるよ。……新。今すぐに」 「……もちろん。いつでも……いくらでも、あげる」 その望みは今すぐ叶えられると覆い被さって奪うように唇を深く重ねる。初めは恥じらっていた喘ぎが愛撫のたびに甘くはっきりしたものになり、それに燃え立たされた新は全身で応えてくれる千早と深く繋がって、その最奥に熱を走らせた。 翌日、連れ立って練習場に向かう千早の挙動が急にぎくしゃくしだして、新は訝しむ。 「だって、出水先輩全部知ってるし……顔見れる気しない……」 「言ったがの。先輩知らん顔しててくれるやろ、って」 そう言葉を返す新の口からクスっと笑い声が漏れた。 「おれらの事『かるたバカップル』って命名したの先輩や。バカップルらしく振る舞って何が悪いんやし?」 出水がそれに何か言うなら呼び名を撤回させるまでだと言葉を継ぐ。 「撤回もなんか勿体ない感じするけど、心配させちゃったしね。かるたで見せようかな、もう壊れたりしないって。……だから今日は私勝つから」 「前々から言ってるがし、ほんなもん譲らんって」 やいのやいの言いながら道場の扉を開ける。一瞬だけ出水が目を丸くしていたが、中に入る時の挨拶に返す振りで頷くだけだった。 練習後、着替えを済ませて新は出水を呼び止めた。 「出水先輩、この前はありがとうございました」 ちょっとした事への礼を装って頭を下げる。出水にはそれで通じたらしく、彼も短く答える。 「何ともなけりゃ、それでいいさ」 「はい。……あの、おれちょっと先輩に聞きたい事あるんですけど」 そう言って内緒話のために一歩距離を詰めて声を落とした新を出水は訝しげに見てきた。 「何だよ。また問題発生か?」 ただの質問だと新はかぶりを振る。 「この前おれに放り投げてきたゴム。……あれどこで買ったんですか、先輩は」 「いや普通にドラッグストアで買ったが。……ああ、使ったからか」 流石に察しが早い。今から話す事を聞いたら、出水はどんな顔をするだろうか。 「はい。ほやけど必需品って言うんなら、買い足し要るなあって思ったんで」 「……昨日の今日で買い足しって……お前一体何個使ったんだよ」 「付ける時失敗してゴミ箱入れた分合わせるとと三つか四つ。……ほんなもん、すぐ使い切ってまうやろうし」 新の言葉に流石の出水も呆気に取られてまじまじと顔を見てきた。入部以来、逆に新たちが驚かされっ放しだった分、彼のそんな表情に内心快哉を叫んだ。 「お前、吹っ切れすぎにも程があるぞ……」 吹っ切らせるように茶室で細かい事まで聞いたのは出水だと言い返すと、いつもの豪快な笑い声が返ってくる。 「……良かったな、綿谷」 穏やかな表情に戻り、深い声音で言われたそれに一礼し、扉の側で待っている千早の方へ戻って行った。 |