保湿系トライアルセット

It's time to say... 3

R18版



 千早の目蓋がゆっくり下りていくのを見て、新はそっと顔を寄せる。唇が千早の唇に触れた途端、首に回された千早の指先にくっと力が入った。
「ん……ぅ、……っ……」
 千早の声は控え目だが、それも新の頭をくらりと揺らす。キスを解かないまま、新は片手を千早の背中から抜き、さっき一番鋭敏な反応を見せた耳朶を指でそっと撫でた。
「……んっ、んぅっ……!」
 途端に千早が紡ぐ声のトーンが跳ね上がり、細い肩がびくんと震える。もっとはっきりとその声を聞きたくなって、新は離した唇を千早の耳元に持っていった。
「あ……っ?! ……やっ、やだ……っ、声……」
「……いいって」
 そんな短い一言にも、千早は身体を震わせて細い声を上げる。

 千早の「感じ」が抜群に優れているのは知っているが、ここまで敏感だと、他を知らないにしろ新は自分がやり過ぎなのかと今更ながら心配になり、耳元から距離を取って呼び掛けた。
「……千早。もし、本気で辛いとか、嫌やったら言うての……? 千早は耳がいいで、こういう時も敏感なんやろうけど、おれのせいで千早の『感じ』悪くさせる訳にいかんし」
 腕の中で千早が小さく身じろぐ。
「辛いとか……嫌とかは、ないけど……。凄く、恥ずかしいよ……」
 千早の聞こえには影響がないと分かると、新の気持ちがふっと楽になった。
「……それは、却下や。おれ、聞きたいし、聞けると嬉しいで」
 意地悪、と言いつのる千早を、新は耳へのキスで封殺する。
「っ、あぁんっ! ……それ、ダメぇ……!」
 新が聞き入れてくれないと分かり、千早は自分の手の平で口を押さえる。その様子を見た新の中に、ほんの少し悪戯心が生まれた。
「我慢するんや? ……なら、おれ頑張ってまうざ?」
 わざと耳元で告げ、そのまま千早の可愛らしい耳朶に舌を這わせる。
「……ふっ?! ……ん、んう……っ!」
 千早は口を押さえる手に力を込め、必死に声を押し込めている。仕草と潤んだ目元とのギャップにまた、新がぐっと嵩を増した。

 「……え、っ……?!」
 内側から押し広げられた感覚に驚いた千早が思わず口元から手を離し、新の顔を見上げてきた。その表情を見れば兆した時と同じに、何故いきなり猛ったのかと問いたいのだろうと分かる。
「なんも不思議でないよ? 千早が、可愛くて……ほやのに凄い、色っぽいって思ったでや」
「……!」
 新の答えを聞いた千早の顔は見事なまでに真っ赤になっている。
「今言うたの、本音やざ? ……見てたら、我慢出来んくなってもた」
 口元を押さえていた千早の手は、今度は心臓を押さえるように胸の上に乗っている。その手を新はそっと取って指を絡めた。
「……動いても、いいか?」
「う、ん……」
 おずおずと首が縦に振られるのを見届け、新はゆっくり動き出す。

 さっき自分が放ったものの滑りも手伝って、今度は比較的スムーズに動けているようだった。
「……っ、あ……、んっ……」
 深くまで届かせるように腰を送り込むと、千早の細い腰が新に合わせるように揺れ、唇からまた、切なげな吐息が零れ出す。
「千早……、凄い……」
「やぁ、言わない、で……。あ、新が……」
「……おれが?」
 続きを急かしたい訳ではないが、千早の熱と柔らかさで新の腰は勝手に動いてしまう。
「そ……やって、言われると……、変に、なる、から……っ!」
「おれも、同じやし。……好きや。そういう、千早も」
 千早が繋いだ手をきつく握ってきた。
「新、あらた……っ、い、いいんだよね……? 私、新ので、いいんだよね?」
「勿論や。千早は、おれのもんやし……、おれも千早だけのもんや。……ずっと、言いたかった」

 新がそう言うと、千早は閉じていた目を開けて視線を合わせてきた。
「変でも、いいの……?」
「うん。もちろん」
 ようやく得心がいったのか、千早はこくりと頷いてから、口を開く。
「あ、新……。遠慮とか、しないで……動いて、いい……よ」
 千早のそれは、自分のために言ってくれている言葉だから、無理するなという一言を新は飲み込む。
「……分かった」
 短く言葉を返すと、新は一旦繋いだ手を離し、千早の片足を抱え上げてから手を繋ぎ直す。もう一方の腕で自分の体重を支えると、千早の一番奥を目がけて一気に突き入れた。
「……っふ、あぁっ?! あっ、あんっ! 新ぁ……っ!」

 普段聞く千早の声より舌足らずで甘いくせに、ひどく艶めいた喘ぎが千早の唇から忙しなく紡ぎ出され、新をどんどん煽り立てていく。その声に突き動かされるまま、新が送り込む腰はさらに力強く激しくなって千早を貪って止まない。
「新っ、私……あ、ああっ、っん……っ!」
 いきなり千早の中が一際きつく引き絞られ、新を奥のそのまた奥へと引き込もうと蠢き出した。
(……え?! ……千早の中、ひとりでに動いて……、吸い付いて、くる……?! これって、もしかして……)
 千早が頂点に達しようとしている。新は音がするほど奥歯を噛み締め、感覚の奔騰を必死に堪えながら腰を送る。
「あ、あ……っ?! もう……ダメぇッ! 新、お願い、お願いっ……!」
「……おれも……、ってまう……っ! ……千早っ……」
 細い腰がぐっとせり上がった途端、新の水位も臨界点を超えた。
「んっ、あぁっ、……あ、───ッ!」
「く……っ、ちはや……っ!」
 新の熱が飛沫くたびに、千早は全身を震わせて受け止める。がくりと千早の力が抜け、新は慌てて千早の脚から手を離し、床にそっと横たわらせた。

 「……タオル、取ってくるで。ちょっと待ってての……」
 聞こえているかどうか分からないが、新はそう告げて床から立つ。次の瞬間くらり、と目の前が眩んだ。
「わ、っと……」
(立ち眩みなんか、いつ以来や……?)
 今日が正真正銘初体験だというのに、いきなり二度も放ったとあっては、目眩を起こしても不思議でもないのかと思いながら、新は押し入れを開けて衣装ケースからバスタオルを何枚か持って千早の側に戻ってきた。
「……千早? タオル。……一枚、下に敷くでの?」
 千早の膝裏にタオルの縁を渡して、上へ引っ張り上げる格好で千早の腰の下にバスタオルを敷き、一枚は千早の身体の上にそっと掛ける。
「ん……。あ、ごめん……」
 ようやく千早が薄く目を開けて言ってきた。
「……汗かいたやろし、シャワー使うか? 千早」
「そうしたいけど……まだ、動けそうに、ないし……」
 後でもいいざ、と新は笑いながら答え、自分もごろんと横になった。

 「新こそ、さっき汗だくだったし。先使えばいいのに」
「んー……まあ、そうなんやけど……」
 シャワーよりも湯船に浸かる方が元々好きだという事もあるが、まだ何となく千早の近くでこうしていたい。そう言うと、千早が器用に膝と肩で這って新のすぐ側に移動した。
「湯船の方がいいって、分かる。……試合の後なんか、特にそうだよねえ」
「うん。お湯ん中で、うーんって身体伸ばすと気持ちいいしの。……キツい試合の後やと寝てまいそうやけど」
 そんな他愛のない話が出来る機会もこれが初めてだ、と新が言うと、千早は片手を伸ばして新の手に触れてきた。

 「千早も浸かる方が好きなんやったら、もうちょっとしたらお湯張ってこよ」
「……あ、そう言えば前、福井の家でお風呂借りちゃったよね。広いよね、新んちのお風呂って」
「あー……ほやった、貸したな。……どうでもいいけど『おれんち』って今はここやざ?」
 笑いながら言うと、千早はベッと舌を出す。その仕草に新は相好を崩した。
「あ、そうだ。……ここ来る前に引っ越し祝いの話したけど、マグカップとか、どうかな」
「気持ちだけでいいのに。……ん、ほんなら本格的に大学始まる前に、買いに行くか? ……一緒に」
「うん!」
 きっとその引越祝いのマグカップは千早専用になるだろう。それよりも今、目の前で花が咲くような笑顔を見せてくれている事が一番の引っ越し祝いだと考えながら、新は頷き返した。






written by Hiiro Makishima