FX情報の口コミ

Chatting 6

新と太一の会話(真面目Ver.)



 「……瑞沢が団体優勝した時、千早言うてきたが。チームに興味ないなんて言わないで、って。……あれな、前の晩に電話で千早から、おれも高校でチーム作れば良かったのに、って言われてつい、団体戦は興味ない、個人戦で勝つ事しか考えてえん、って言うてもたでなんや。……今はほんな事言うてもたのは、自分のチーム持ってる二人が羨ましかったでやって分かってるけど、中学の頃とかは、多分……部活に割く時間がないって事を深く考えとうなかったんかも知れん……」
 宿で千早が電話を掛けていたのは知っていたが、そんな会話が交わされていたとは太一も初めて知った。
「それは……時間がない理由を突き詰めちまうと、そうしたくない人を責めちまうかも知れないから、か……?」
 太一は少しだけ曖昧な言葉を選んで問うた。
「ほや。……時間が取れんのは何でやとか、考えつんたら……親やらじいちゃんを責めてもたかも知れん。ほやで、おれは……部活のかるたに興味ない、って思いこむ事で思考を止めてたんや」
 新の溜め息混じりの声は微かに震えていた。強くなりたいなら南雲会で練習すればいいと思っていたのも事実だが、強さ以外の部分───和気藹々とした「仲間とのかるた」を遠ざけていたのは、やはりどこかで羨ましかったからだろう。そして新が唯一「チーム」と認めていた千早や太一と簡単に会えない事を実感したくなかったのかも知れない。

 「……月並みな言葉だけどさ。新……もう考えない方がいいぜ」
 そう言いながら太一の中には別の考えも同時に生まれていた。新が口にした通り、彼はずっと祖父を「かるたの神様」と慕い、尊敬していた。その敬愛の度が強すぎて、批判さえ自分に禁じたのではないだろうか。だがそれを今言っても詮無いことと、太一はそれ以上は何も言わなかった。
「今のお前はさ、お祖父さんと約束した通り名人目指して頑張ってる。チームについて昔なんでそう思ったかも、自分なりに理由が分かってる。……それだけでいいと思う。これから先のお前が、同じ考えは持たないだろうから」
「……うん。……ありがとう、太一」
 新は眼鏡を外して不器用に目元を拭っていた。

 「ふわぁ……流石に、夜更かしが過ぎるかな。……そろそろ、寝ようぜ」
 湿っぽい空気を嫌ったのか、太一はわざとらしい欠伸をしてみせた。
「やな。……太一、明日ちょっとは時間あるんやろ? 帰るまで」
「特に決めてねえけど。切符ぐらいすぐ買えるしさ。……何で?」
「南雲会の道場、一緒に来んかなって思っての。久しぶりに、一緒にかるたしよっさ」
 蛍光灯の紐を引き、常夜灯だけにしながら新が答えてきた。
「そう言や、お前とかるたするのって小学校以来なのか。何か公式戦でちょいちょい顔見てるから、意外な感じだな。……ん、オッケ。じゃあ明日に備えて、とっとと寝るか」
「……ほやな。おやすみ」
「おう」
 新が常夜灯も消すと部屋の中は完全に真っ暗になる。布団に潜り込んだり眼鏡を外す物音がしばらく太一の耳に届いていたが、それもすぐに静かになった。

 伸ばした手の先さえ見えない暗闇の中で、太一は天井をじっと見つめている。
(新が卒業で福井に帰った後の三年間、おれ達みんな、ホントはもっと話をしておくべきだったんだろうな。新が介護の弱音吐かなかったみたいに、おれも自分だけで抱え込んだ事、色々あった……)
 事の大小を競うような話ではない。友達がそこに居る、そう思えるだけで心が楽になる事はいくらでもあっただろう。
(……千早への気持ち考えると、ちょっと複雑なのは確かだけど……)
 それでも新の病室で「友達に戻りたい」と言ったのは太一の本音だ。
(だから、おれと新は友達として居続けよう。……千早が誰の物かなんて、そう考えるからいけなかったんだ)
 千早は千早自身のもので、その決断も彼女の意志だ。それが自分の望む物でないとしても、強制する事は誰にも出来ない。
(……それって、控室で新が言ってた事、そのものじゃんか。……はは、おれってバカだなあ……)
「……ん、どしたんや、太一……?」
 隣の布団がもぞりと動いた。どうやら知らない間に声に出して笑ってしまったらしい。新が眠そうな声で問うてきた。
「あ、悪い。……何でもねえ。……おやすみ」
「……うん……」
 規則的な寝息が聞こえ、新が再び眠りに就いたと分かる。太一も眠りやすいように姿勢を変えて目を閉じた。

 ◇ ◇ ◇ 

 「お、おはようございます……」
 翌朝、新の母親に呼ばれて朝食の席に着いた太一は目が点になった。辛うじて朝の挨拶は口に出来たが、目の前にどんと置かれた山盛り───むしろ特盛りと言う方が当たっている茶碗を目にして、たじろぐなと言う方が無理な注文だった。
「はい、真島くん。一杯食べてのー」
 新の母親がにこやかに勧めてくるおかずも随分と量があった。
「あ、母ちゃん。おれ自分でご飯よそうで、いいざ。……太一、それ少しこっち分けてや」
 新が空の茶碗を手に助け船を出してくれ、太一は心底ほっとした。
「……新んちって、いつも朝こんなガッツリ?」
「なんも。持て成しのテンション上がりすぎたんやろ」
 新は小声で、南雲会の先輩である村尾を訪ねた時に自分も家に上げられてこうした「歓待」を受けたと話してくれた。その間にも、これもどうぞと次から次に太一の前に皿が出される。
「母ちゃんって。おれら飯食ったら練習行くで、軽くでいいんやって」
「あ、いや……お気遣いありがとうございます。いただきます」
 量はともかく、これも息子の友人への心尽くしだからと太一は手を合わせて出された朝食に箸を付ける。

 「真島くん」
「あ、はい」
 新の母が呼び掛けてきた声のトーンが不意に変わり、太一は箸を置いて顔を上げた。
「……新がそっちの大学に行ったら、また仲良うしたげての。こっち帰って来てからも新、おじいちゃんに東京の学校はどうやとか、よう話してたんや。真島くんらとお友達になれたのが、ようけ嬉しかったんやろうの」
 母にいきなり暴露されて、新は隣の席で真っ赤になっている。
「はい、おれも……あの時、新と友達になれて良かったって思ってます。……あんな事してしまったのに、また友達に戻れて、おれも……凄く、嬉しいって今は本当にそう思います」
 太一が言い切ると、新の母は柔らかく笑ってくれた。

 「あーもう……親ってどこんちもそうなんやろか。……いきなり古い話持ち出したりとかって」
 何とか朝食を食べ切って部屋に戻った新が、苦笑混じりに言い出した。
「うちの母親は、子供時代の恥ずかしい話より自慢話の方が多いタイプだしなあ。新も何度か見た事あったろ」
「まあ……厳しそうやなあ、とは思ったの。……千早は『ミセス・プレッシャー』って呼んでるって昔教えてくれた事あったけど」
 太一の母親を直に見たのは卒業式と校内かるた大会ぐらいだが、あの時は眼鏡をしていなかったため太一の母親の顔はよく覚えていない。ただ当時の新が見ても、太一の頭の回転や運動神経はずば抜けていたと言うのに、千早に負けたというその一点であれほど叱るものかと驚いた事は今も記憶に残っていた。
「まあなあ。トップ以外は全て無価値、みたいな物言い多いからな、うちのお袋。……ただ、『でも』と『だって』を使うな、って教育方針は感謝してる。……自分が今言い訳してる、って自覚出来るからさ」
「ああ、太一の潔さって凄いなって思ってたけど、納得やわ。……言い訳を自分に許さんって、実は物凄く難しい事やと思うざ、おれ。かるたかってほうやろ。負けた時何でやって考えるけど、ついつい『今日は調子が悪かった』とか思いとうなるもんやし」
 高校に部を作ったら自分もその二つを禁止しようか、と新は笑いながら言ってきた。
「女子にも禁止させんのはちょっと難しいと思うぞ? 口癖みたいなとこあるじゃんか。うちの部でも部長命令で禁止してるのは男だけだし」
 そもそも太一が部長権限でそれを禁じたのは、下級生の男子がオーダー表を勝手に書き換えて提出しようとして何度か揉めたせいだ。最近はその筑波もちゃんと他の上級生に敬意を払っているため、そうした注意自体する事もなくなった。

 「オーダー書き換えって、えらい度胸あるなあ、その子。かるた歴長いんか?」
「筑波か? 北海道出身だから、下の句かるたは長くやってたってさ。そっちでは負けなしだったそうだけど、競技かるたでは今C級」
 重い木の札を、札直で突く取りはやはり年季が入っている分上手い、と太一は簡単に説明する。
「あー……ほんな話してると、やっぱ瑞沢と試合しとなるのぉ。ウズウズするわ」
「大会のついでに一泊とか、出来ねーの? したらうちの部室で練習ぐらいは出来ると思うけど」
「……旅費が捻出出来れば、やの。本屋のバイトやと、大会参加費と全日協の会費で消えてまうし。推薦の面接とかでそっち行く時ぐらいやろか。顔出せそうなのって」
「まあ、今決めなきゃって事でもねえし。来れそうならメールくれれば調整しとくからさ」
「ありがとうな。瑞沢の部室も見てみたいし、楽しみや。……っと、ほや。お腹そろそろ落ち着いたか? 太一。ぼちぼち南雲会行く支度せんとの」
 新は床から立ち上がり、練習着が入った鞄を取り出す。太一も自分の荷物をざっとチェックして、練習着の他に南雲会への手土産が入っている事を確かめてボストンバッグのファスナーを締めた。









written by Hiiro Makishima