保湿系トライアルセット

マインドゲーム 3

福井弁特有の言い回しは括弧内に補足しています



 「さっきの、千早に言う言わんの話やけど」
 太一の呼吸が落ち着いたのを見計らって、新は再び口を開いた。
「……詩暢ちゃんが一人で練習して強なったのはホントの事や」
「それはおれ達もテレビで見たけど……」
「ほんなら覚えてえん? 六年生までは京都明星会に居って、その後一人で練習してたって話」
 正直に言えばそこまで細かくは記憶しなかった。と言うより、急激に太った姿と、その後の名人戦に圧倒されてしまったせいで記憶から抜け落ちたのだ。
「太一。今自分がもっと強うなりたかったら、太一やったらどうする?」
「おれ? ……そりゃやっぱ、白波会で練習するよ。強い人から教わるのが一番じゃんか」
「うん、おれもそうや。……それ考えたら、不思議やって思わんか、太一? 京都にも強い人ぎょうさん居るのに」

 「確かに……そうだな。強くなろうとしてるのに、一人でやるって方法としては変わってるな」
 瑞沢の部員が力をつけたのは、西田や千早が全力で相手をしてきた事も大きい。太一自身、試合で当たった強い相手の技を取り込み自分のものにしてきている。もっとも、その不可解な練習法で最強の座に着いたのだから、やはり詩暢の才能は並大抵のものではないのだろうと太一は思う。
「ただ、おれにも詩暢ちゃんに何があったんかは全然分からんのや。もしかしたら触れて欲しない事なんかも知れん。……ほやで千早には性格の違いやってしか言い様がなかったんや」
「仲間や先生とやるより、一人でやる方がマシって思う程の何か、って事か。……おれさ、新から話聞くまでは、単にクイーンはもの凄く強いから、レベルが低いヤツは眼中にないだけなんだろうって思ってたけど……」
 新が口にした、詩暢が他人に触れて欲しくない事。それが何であれ、確かに他人が安易に口を出せる事ではない。
「……となりゃ、やっぱ千早がクイーンに勝つしかねーな」
「うん」
 もちろん強い選手は他の学校にも大勢いる。しかし新と太一が知る中で「かるたへの情熱」と「人に垣根を作らない」が併存している人間と言えばやはり彼女しかいない。

 「千早やったら、案外すんなり詩暢ちゃんとも友達になるんかも知れんなあ」
 自分だってそうだった、と新は懐かしそうな目で呟く。そうなれば今自分達が話している事も杞憂に終わるだろうし、終わってくれた方がいいと思う。
「かもな。……けどよ、新」
 太一の一言に新は不思議そうな顔をする。
「周りに変なキャラクターグッズ増えまくるって、頭痛くねえか……?」
「あー……」
 千早のダディベア好きも相当だが、詩暢もまたクイーン戦にまでスノー丸グッズを持ち込む程の強者だ。二人が仲良くなったらなったで別の戦いが勃発する可能性は高い。
「……それは……誰も間に入られん気ぃするわ、おれ……」
 新と太一は顔を見合わせ、同意を示すようにがっくりと肩を落とした。

 「そろそろ戻らねーとな。じき午後の試合の組み合わせ始まるだろ」
 腕時計を見て太一はドアを開けた。
「二人とも何やってんの?!」
「うわ、千早?!」
 男子トイレの出入り口真ん前に、千早が仁王立ちで待ち構えていた。
「お前、そんなとこ立ってたら、他のヤツ誰も入れねーじゃん」
「だって太一も新も全然戻ってこないし……ねえ、二人ともひょっとして……」
 千早の探るような視線に、新と太一はさっきの話が聞こえていたのかと身体を固くした。
「……二人揃ってお腹痛いとか?」
「え、あ、……えーと、どうやろ……い、今は何ともないで、うん」
 しどろもどろな新の言葉に太一も乗る形で頷く。腹より頭が痛いと思わなくもないのだが。
「あーもう、組み合わせ、見に行こうぜ。……新、勝つしか、ねーよな」
「……そうやな」
 太一が片手を挙げてきた。新も自分の手を開き、太一のその手にパンと小気味よい音を立てて合わせる。それを見た千早が私も、と両手を広げて差し出してきた。
「おし、じゃあ『チームちはやふる』で」
「上位独占しよっさ」
 千早の手のひらに、新と太一は同時に手をパシンと合わせた。









written by Hiiro Makishima