FX情報の口コミ

201X0601 4



 「好きなとこ座ってての」
 ヤカンを火にかけながら、新は居間に向かって呼び掛けた。
「うん、ありがとう」
 千早も手伝うと言ったのだが今日の主役は何もしなくていいと新に言い切られ、千早は居間に出されたテーブルの前に腰を下ろして新が小さなキッチンの中を忙しなく移動している姿を眺めている。
「紅茶ぐらいしかないけど」
 新が少し申し訳なさそうに言ってくる。
「私、紅茶も好きだよ」
 新が普段飲んでいるのが緑茶だと知っている千早は、それも多分新が今日のために買ったのだろうと察してそんな風に答えた。
(気にしないで、って言っても新はきっと、気にしちゃうんだろうしなあ……私ホントに気にしないのに。でも、嬉しい)
 自分のためだけに新が色々気を配ってくれている事が嬉しくて千早の顔は自然と綻ぶ。

 「ごめん、お待たせやー」
 盆の上にケーキ用の小皿と紅茶のカップを載せて新が居間に入ってきた。注意深くお盆をテーブルの上に置くと、新も腰を下ろす。
「……まあ、地味やけど」
 言いながら新はショートケーキを皿に移し替え、フォークを添えて千早に手渡してから、自分の前にも同じものを置き、紅茶のカップも同じ順番にテーブルに並べ終えて、一度姿勢を正した。
「誕生日おめでとう、千早」
「ありがとう!」
 新の言葉に被せる勢いで千早は礼を口にする。それに小さく笑いながら、新は鞄の中に隠しておいたプレゼントの包みを外の紙袋ごと取り出して、千早の方へ差し出した。
「これ、誕生日のプレゼント。気に入ってくれたらいいんやけど……」
「開けていい?」
 新が頷くのを待って、千早はわくわくと袋を開く。ケースに入ったDVDをまず千早の手が取り出した。

 「これ、何のビデオ?」
 DVDをかざして千早が聞く。
「ああ、昔じいちゃんと佐藤清彦先生が模範試合した時のビデオ。西田くんに頼んでDVDにコピーして貰ったんや。……実はおれの分とかもやけど。……何しろ古いビデオやで伸びてまう前にコピー取って、千早にも見せたかったんや」
「凄いすごーい! 嬉しいー!」
 帰ったら早速見る、と千早は目をきらきらさせている。
「こっちは何だろ?」
 綺麗にラッピングされた包みを千早は丁寧に開けていく。

 「あーっ! ダディベアだ!」
 シルエットだけのTシャツを選んだのに、やはりダディベア好きな千早は一目でそれと気付いたようだ。うわあうわあと声を上げながら、二枚の色違いTシャツを交互に身体の前に当てている。その包みからヘアゴムが転がり、千早の笑みが大きくなった。
「かっわいい! これも貰っていいの?!」
「……う、うん。千早髪長いで、練習ん時結ぶやろし……」
 ダディベアが可愛いという意見だけは賛成しかねるが、千早がここまで喜ぶなら可愛い要素もあるのだろうと新は思う事にした。
「新、ありがとう! すっごく嬉しい! さっそく練習の時使うね!」
「……そう言(ゆ)ってくれて、おれも何かホッとしたわ。正直言うとなかなか贈るモン決まらんかったし」
 新は百貨店で偶然会ったヒョロくんからアドバイスを貰った事を話す。
「へえ、ヒョロくんが。一瞬意外だなって思ったけど、そう言えば高校の時から肉まんくんのお姉さんと付き合ってるんだったね」
 Tシャツを紙袋に仕舞っていた千早が、その中に封筒が入っていることに気付き中身を開く。
「わ、綺麗なバラ……今読んでもいいの?」
「えっと……まあ、うん、好きな時に読めばいいけど……」
 新がもごもごと答えると、千早は早速カードの文面に目を通し始めた。新らしい几帳面な字でメッセージが書かれている。

 『千早へ
  誕生日おめでとう。直接顔を見てそう言えるのが、本当に嬉しい。
  来年の今日も、その先もずっと、こんな風に一緒に祝っていきたい。

  六月一日の誕生花はバラだと知って、このカードを贈ろうと決めたけど、気に入ってくれたらと思います。
                                    心をこめて 新』

 千早がカードから目を上げると、新は耳まで真っ赤にして明後日の方を向いていた。
「新……ありがとう。毎年、新からバースデーメール貰った時『最高の誕生日だ』って思ってたけど……今年はもっと嬉しい。もっとずっと幸せな気分」
「うん。……おれも」
 新の耳はまだ赤いままだが、千早にちゃんと目線を合わせて答えてくれる。
「でも誕生花って私、初耳。新、一体どこで知ったの?」
 別に隠す事でもないからと、新は自分の携帯電話を取り出して以前見つけたサイトを表示させて千早に見せた。
「ほらこれ。プレゼント何にするか悩んどった時に、千早の誕生日で検索したら見つけたんやけどさ」
「へー……すごい。あ、花言葉も載ってるんだ。……ねえ、新?」
「……何?」
「この花言葉の『我が心』って私と新、どっちなんだろ」
 新自身はこのサイトを見た時に、自分の心を千早が知っているという意味に捉えたが、言われてみれば「千早の誕生日の花」だから、千早がこの花を捧げる相手だけがその心を知っている、でも通じると今更ながら気付く。

 「おれは……おれやと思ってたけど。我が心って」
 そう答えると千早が隣に座り直してきた。
「でも、どっちでもいいよね。私の気持ちは新が知ってるし。だから、これ……お礼」
 言うなり千早は新の頬に小さなキスをする。
「ね、ね、新。ケーキ食べたい。あーんって」
「……はいはい」
 少しだけ苦笑いを浮かべながら、新はフォークでケーキを一口分取り分けて千早の口元に運ぶ。
「んー、美味しいー!」
 新の差し出したケーキをぱくん、と食べた千早が楽しそうに笑う。その唇にホイップクリームが少し残っているのが見えた。
「千早、お弁当ついてる」
「うぇっ?! どこ?」
「……ここや」
 さっきのお返しとばかりに、新は自分の唇で千早の唇ごと残ったクリームを舐め取った。



ちなみにこんなバラだそうです





written by Hiiro Makishima